July 30th, 2008
火曜日の午後、右手にトウモロコシ畑を眺めながら風の丘通りを抜けて、バートン氏の農道に入ろうとして右折したとき、ジョン・ディアー社製の緑色の中型芝刈り機が、いきなり農道に飛び出してきました。
急ブレーキをかけた私の四駆に驚いた六十絡みの女性は、芝刈り機に乗ったままのけぞってしまいました。そして、すまなそうに苦笑いして見せました。
急ブレーキをかけて停まった車の窓をおろして「恰好いいですね!」と、反対側に移動を終えた赤毛のショートヘアーのその女性に声をかけると、彼女は、轟音にかき消されてしまった私の口の動きに注意を払いながら、「何?」というような表情を浮かべた後、怒鳴られているとでも思ったのか「すいませんねぇ!」と大声で叫びました。
「違うんですよ。芝刈り機の運転が颯爽としていて素敵ですね!って、言ったんですよ。」
叫んだ私の声が、再び地響きと轟音でかき消されてしまったので、女性は、頭を振ってエンジンを止めました。 私は、先刻自分が言った言葉を、手短に繰り返しました。
すると、女性は、「あなたが素敵でしょうって訊いたの?」と怪訝な面持ちで訊きました。
いくら私が変わり者でも、見も知らぬ人の作業中に、自分の車を停めて「私って素敵でしょう」なんて質問をするなど考えられません!「私じゃなくって、あなたが!そして、このよく手入れされた農道も、とっても気持ちいいですよ!」女性は、ようやく、安心したように小さく微笑みました。
「へえっ、あたしが素敵って?そう?急に道の真中に飛び出しちゃって、そりゃぁ、申し訳ないことをしちゃったけど、畑の周りの雑草は、あたしがいつも刈ってるのでね。トウモロコシもこんなに大きくなっちゃったのに、まわりは草でぼうぼうでしょ。まあ、あたしの畑ってわけでも無いんだけれどね。だけど、自分の庭の手入れのついでに、周りもきちっとしとこうと思ってね。」
可愛らしいピンクのタンクトップ姿の外見にそぐわない抑制の効いたハスキーな声で、それでもやや興奮しながら一息にそれだけ言ってしまうと、女性は、面白そうに私を凝視して問い質しました。
「どっかで見かけたことがある顔だけど。」「ここの角を曲がるとき、いつもこの庭、良く手入れが行き届いてるなぁって思いながら、一旦停まれの標識の前で停まって、手を振ってから曲がるからでしょう。」
あぁ、と、思い出したような表情を浮かべて「車の中から見えるでしょうけど、あたし、いつも庭の手入れしてるでしょう。それが自慢ってわけでもないんだけれどね。でも、毎日手入れは欠かさないの。自分の庭も、この道端の草刈もね。あたしがやってるのよ。ここに移り住んでから、かれこれ43年になるかしらねぇ。あたしの土地は500ドルで買ったのよ。でもねぇ、当時、持ち合わせが50ドルしかなくってねぇ。たったの50ドル!農家の地主さんのとこに50ドル持ってって、これしかないって掛け合ってみたら、『残りは、お金が入ったときに払ってくれればいいよ』って言ってくれたんだよ。そして、ようやくこの家建てて。小さくたって、これで中身は立派なんだから。女手ひとつで子供をふたり育てながら、そのうち借金も返してね。。。そりゃぁ、大変って言えば大変だったし、40年以上もかかったけど、まあ、土地もなにもかも気に入ってるの。この辺には、当時、あたしの家しかなかったんだから。あたしが家を建ててた後に、他から、次々と移り住んできてねぇ。この家にはそりゃぁ、お金かけたんだから。いまじゃあ、建てた時の2倍以上の値がつくらしいんだよ。」
先刻とはうって変わって興奮を露に、ジョン・ディア製の芝刈り機に座ったまま、女性は喋り続けました。
急いでいたのですが、彼女の身の上話にすっかり魅了された私は、見通しの悪い曲がり角に車のエンジンを停めたまま、お喋りに聞き惚れてしまっていました。
「ところで、あなた、何処に住んでるの?」ひょろりと長い腕をさすりながら、女性が訊きました。
「バートンさんの農場を通って、あのトウモロコシ用のサイロの裏手にある林の中に。ここから2マイルとないところですよ。」「サイロの裏のどこ?」「林。あの裏に林があったでしょ。そこに家を建ててから、もう7年になるんですよ。今では周りに4軒新しい家が増えたんですよ。」「向こうには滅多に行かないけれどね。そう。。。」
お喋りに一段落付いたところで、「お話が出来て楽しかったです。」と手を振って立ち去ろうとすると、女性が「ちょっと!お名前は?」と訊いてきました。エンジンをかけながら、振り返って、大声で「メグです。M・E・G。」と綴りを言ってみせると、彼女は「私の名前は、ライラック。」と言いました。「ライラックって、あの、花の?」女性は、誇らしそうに、満面に笑みを浮かべると、「そう。あの、ライラックの花のライラックよ。あたしの名前は、ライラック。」と、自己紹介して、「はじめまして。どうぞよろしく。(Very nice to meet you.)」と、真っ黒に日焼けした頬を、嬉しそうにほころばせたのでした。
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July 24th, 2008
先週末のある日の午後、「メギー~!暑くて、暑くて~!一緒に暑さをしのごう~!」と、バテ気味の声で電話をしてきたD氏の奥さま。一時間後、奥様と、4人の子供たちがやってきました。パティオの古い白のペンキが剥げかかった錆びついたメタルの長椅子の、色褪せたぺらりとしたクッションにへたり込んで、私は、子供たちが水の中で遊んでいる光景を漠然と眺めていました。
定刻、空の彼方には飛行機雲が流れ、前日、3週間留守にして帰宅したばかりの次男が「蝉の声?」と呟いて見上げて感動した鬱蒼と生い茂った庭の樫の大木の緑葉の合間を、珍しく黄色い鳥が飛び交っています。
私は、読みかけていた小難しい書物に視線は落としながらも、時折聞こえるキャッという6歳のEちゃんの金切声を聞くたびに、サングラスに映る小さな幼女の笑顔に、安堵の気持ちを取り戻すのでした。オリンピックの水泳の選手さながらの形相で水中眼鏡をかけて、星の模様のついた水着を着用してちょっと張り出したお腹を突き出して飛び込み台に立ち、まっすぐな姿勢のままで、水底に身を落とすEちゃんのキリリとした顔面の表情は、心なしか、娘の幼かった頃を髣髴させます。「アメリカ代表!エマ・B!ペンシルベニア州出身~!」プールの反対側の飛び込み台に立つ幼女に向かって、大声で叫んでみます。「怖いもの知らずなの。冒険心が強くって、何でも試してみたいのね~。」私の声が届いたのか、それまで黙々と泳いでいた母親が、急に水面に顔を出してにっこりと笑いました。
「次女はこの間12歳の誕生日を迎えたし。。。長女は8月下旬に大学へ行くの楽しみにしているし。そうだ、そうだ!聞いて!フィールドホッケーのチームが、素晴らしい贈り物をしてくれたのよ。大学生になる娘に、大好きなお店で、寮の自室で使う商品が買えるようにって、寄付金を集めてくれたの。そして、私たちには、とっても洒落たレストランでのディナー券!家族全員で、久々に外食よ!」彼女は、満面に笑顔を湛えています。
この子供たちのパパ、D氏が亡くなってから2ヶ月が過ぎました。葬儀も終わらないうちに「心無い知人が、長い夏を乗り切るのは大変よ、と要らぬ忠告をしてきた。悪気はないんだろうけれど。。。」と心を傷めて語った彼女と一緒になって、私も涙してしまったものでした。
この日の午後、「思い切って、来週は、妹のバケーションに参加することにしたの。夏はやっぱりバケーションとらなきゃ!Dがここにいたら、絶対そうしろって言うはずでしょう。毎年、必ず妹夫婦と彼女の子供たちと行っていた海岸への家族旅行。今年も4日間だけ、参加よ!」と、4人の子供たちの母親は、言い放ちました。青い水面に反射した真夏の陽光。2人の娘のはしゃぐ声。プールサイドに飛び散る水飛沫。彼女の18歳の長女は、ハンモックですやすやと寝息を立てています。そして、母親のこの美しい笑顔。彼女のエネルギーの源はどこにあるんだろう。。。私は、真っ白な歯を見せて無邪気に笑う母親を正面から見つめました。後方の飛び込み台では、相変わらず末っ子のEちゃんが濡れた巻き毛をかき上げながらジャンプの体制に入っています。
一ヶ月前 - 。「ベトナム戦争に出兵した兵士の何人かが、今年同じ病に倒れたとの情報を得たの。枯葉剤が原因かもしれないって。。。でも、裁判は起こさないことにしたの。」少し翳りを含んだ硬い表情でそう言っていた彼女。そして、あの時には、同じ太陽の下のこの場所で、言葉数が少なかった子供たち。この日は、彼女の15歳の長男に向かって「ちょっと~!アナタ、おばさんより、背が高くなっちゃって~。どこの高校生かと思うじゃない。もう170センチは超えちゃったでしょう!」という冗談も飛び交いました。子供たちと過ごしたこの日の午後、きらきらと眩しい日差しを受けて笑う彼らの表情を見つめていると、悲しい知らせを受け取ったあの日の出来事が幻想だったかのように思えてくるから不思議です。
最愛の人を失った人間が、再びこんなに美しい笑顔を取り戻すことができるのだ、という事実は、図らずも、私に大きな希望を与えてくれました。今頃、一家は、暑い太陽の下で砂浜に寝そべっていることでしょう。明後日、真っ黒く日焼けした子供たちの笑顔に再会するのが楽しみです。
- 死の直前、彼は、何の言葉も残さなかった - 、とD夫人は言ったけれど、彼は、最期の想いを口にする必要なんてなかったのかもしれません。20年という歳月を共に歩んできて、本当に大切なことが何なのかを、二人は十分に分かり合っていたからです。世界で一番大切なのは、この子供たちの命であり、そして未来だということを - 。そして、それらを守るために、何をしなければいけないかということも - 。
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July 15th, 2008
7月15日。今日は、私の父の誕生日です。両親が、いつものように、仲良く一日違いの誕生日を迎えられたことが、離れて暮らしている私にとっては、最高の贈り物です。
おとうさん、お誕生日おめでとうございます。ホテルのほうでは、ゆっくり出来ましたか。先程電話してみましたが、お留守のようでした。このメッセージと留守番電話の伝言。。。どちらが早く伝わるでしょうか。
今日、ボビーが無事に帰ってきました。カートの3番目のおねえさんが、子供たちとママを連れてきて金曜日まで滞在するそうです。折をみて、また連絡しますね。
今年も、お父さんにとって、実りの多い一年でありますように。。。
毎年蒔き続けた沢山の種が、我が家の庭にも、今年も、多くのしあわせの花を運んでくれました。お父さんとお母さんが教えてくださった幸せの種蒔きを、海のこちら側でも、ずっとずっと続けています。
どうぞ、ご自愛くださいね。また、声が聞ける日を楽しみにしています。
我が家のハーブガーデンより、愛を込めて。。。

7月15日生まれのみなさまへ!
ハッピー☆バースデー!みなさまにとっても、今日が、素晴らしい日となりますように。。。
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